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旅立ちの予感

 今回のWING CUP16、この作品がトリを飾ることになった。もちろんそれは日程上の順番だけど、これは実にWING CUPに相応しい作品だった気がする。そこには旅立ちの前のほんの少しの不安が描かれる。それは密かな休息時間でもある。

 そして、この作品はウイングフィールドという小さな舞台空間をさりげなく生かす贅沢な作品でもある。通常通りの舞台組みでオーソドックスできちんとしたセットが作られている。舞台と客席の境界には紙コップを使って作った可愛いテトラポットが並ぶ。銀紙の海。ダンボールの砂浜。そこで迎えの船を待つふたりの男たち。博士と呼ばれる年配の男とその助手らしき若者。彼らはここで大量のどんぐりを拾ったようだ。

 ふたりはどんぐり拾い隊のメンバーである。(それって一体どんな団体?)そこにひとりの女が現れる。彼女はここに何かを隠していてそれを持って帰りたいみたいだ。だけどふたりがいるから叶わない。なんとかして彼らを追い出したい。彼女は松ぼっくり集め隊のメンバーでふたつの団体は敵対するみたいだ。

 基本のお話はただこれだけである。しかもここから何がが始まるわけではない。見事に何もないまま、彼女は去っていき、彼らは残って船を待つ。見終わった時、啞然とした。一体これは何だったのか、と。だけどなんだかとても気持ちのいい時間だった。タイトルの羽止場は波止場である。ただ、ここは「波」ではなく、まずは「羽」を止めておく場所。わかりやすい。立ち止まって無為に見えるような時間を過ごす。そうすることで何かが見えてくるかもしれない。いや、何も見えてこないかもしれないけど、それはそれでいい。これはそんな優しい時間を描く作品である。「小さくて遠いファンタジー」というチラシの文言がすべてを象徴する。

 余談だが、作、演出のけんこうは大学4年生で、この春から教員(学校の先生、ね)になるらしい。これも余談だが、40年以上の歳月を教員として過ごしてこの春からたぶん完全引退する(予定)広瀬は密かにこの作品に共感している。

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​撮影:水上琴葉

執筆者 プロフィール

広瀬泰弘(ひろせやすひろ
 

1980年頃から小劇場演劇を見始めて現在に到る。90年から2002年までスペースゼロ演劇賞選考委員。この頃から年間150本程の芝居をコンスタントに見ている。演劇情報誌「じゃむち」(93〜98)では創刊から休刊まで劇評、インタビュー等を担当。2019〜21年まで「イマージュ」で劇評。「演劇会議」等にも劇評を書く。大阪春の演劇まつり、HPF(大阪高校演劇祭)審査員は現在も続けている。WINGCUP審査員は昨年度まで担当。

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