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ここではない何処か

このさりげないタイトル(『奇譚集』)がいい。まさにそのタイトル通りの、だけど確かに不思議な、そんなお話が続く。これは5話からなる短編集である。お話には一切つながりはないけど、まるで夢のようなお話が流れるようなタッチで描かれる。とても心地よい75分間だ。的確なチラシのデザインも素敵だと思う。妖怪たちとその背後にいる大きな龍。この芝居をしっかり象徴していることは見終えた時に気づく。

 オープニングの『面接』は単純だけど笑える。コントみたいな小品。AIのベンチャー企業の面接に臨む幽霊。125歳の彼女の必死さと幽霊だと知った面接官の驚きの対比。続く『猫の言い分』の面倒くさい捨て猫(とても偉そうな態度!)と女のやり取り。人の姿になりしゃべってくる猫の様子には笑える。

 快調に描かれるここまでの2本が実は前哨戦で、ここからの3話が本題なのだろうか。この2本のふたり芝居の後は3人から4人による作品となる。その中には必ず存在しないひとりもいる。ひとりか、ふたりのドラマに何故かもうひとりが無言で(あるいはひとり他人には聞こえない言葉を呟きながら)寄り添っている。

 最初は『籠女』。公園の花壇の中にいる着物のあの女だ。彼女はここにかつてあった商家の妻。ふたりの会話を聞いている。祭りの夜、惨劇が繰り返す。ふたつの時間は交錯し重なり合う。3人の仕事仲間の男女によるドタバタ劇(『今日だけお前が邪魔なんだ!』)を挟んで最終話『あきちゃんへ』に続く。幼い頃家を出ていった母は、今もここに無言でいる。ひとり暮らしの彼女の部屋。彼女は遠方に住む妹あきちゃんへ送るわけもない手紙を毎日書き綴る。家族が失われた後の世界でひとりひっそりと暮らす姉。そんな彼女の日常を淡々と描く。職場と自宅との往復。繰り返す変わらない毎日。せっせと綴る妹への思い出話。そこに無言でいる女。

 そしてこの最終話が終わった後、舞台背後から現れた龍の絵に驚く。そうなのか、あなたはずっと前からそこにいたのか、と僕たちは気づくことになる。これは短編連作を通してひとつの世界観を確かな手つきで提示する小品。

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執筆者 プロフィール

広瀬泰弘(ひろせやすひろ
 

1980年頃から小劇場演劇を見始めて現在に到る。90年から2002年までスペースゼロ演劇賞選考委員。この頃から年間150本程の芝居をコンスタントに見ている。演劇情報誌「じゃむち」(93〜98)では創刊から休刊まで劇評、インタビュー等を担当。2019〜21年まで「イマージュ」で劇評。「演劇会議」等にも劇評を書く。大阪春の演劇まつり、HPF(大阪高校演劇祭)審査員は現在も続けている。WINGCUP審査員は昨年度まで担当。

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