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「親愛なるヒロインたちへ、愛を込めて」

関西弁の軽やかなテンポと、一方細やかな空気の作り方はとても丁寧で、素敵でした。冒頭のユイ不在時のふたりの会話なんか、大好きです。

ダイキ「お前ら、大学の頃から全然進展ないよな」

ツトム「その話今やめろよ」

ツトムとダイキは大学お笑いサークル時代からのコンビで、ファン兼マネージャーのユイとともに卒業後も活動を続けている。ツトムはずっとユイのことが好きで、でも実はユイはダイキのことが好き……甘酸っぱいですよね、かわい。なんてぬくぬく見ていられる芝居ではありません。どうやら3人とも、家庭環境に悩んでいるようで。ダイキは母親の過保護(というかもはや監視)、ユイは父親からの暴力、ツトムは家があまり裕福でないらしく結構苦労しているよう。3人とも「ここが好きだ」と思っているだろうけど「もう限界かもしれない」ともきっと思っているだろうなあという、いつか誰かがいなくなってしまうかもしれないという不安が終始ちらつきます。そんな不安を孕んだ関係を子気味良い関西弁で運ぶセンスが秀逸だと感じました。

 ドラマの展開をざっくり言うと、情けない男二人が、ヒロインの死をきっかけに成長するドラマ。実は私、この男二人があまり好きじゃありません。だって、あんまりにも情けない。その情けなさと言ったらもはや憎悪が湧いてくるほどなのです。情けね〜ポイントその①・酒の勢いで妹の売春をアウティング。初の賞レース準決勝進出の打ち上げに泥酔状態で現れたツトム。何があったのかを問い詰められ、妹ひかりがおっさんとホテルから出てきたのを見たと告白!それはいかんぞ兄貴!ツトムはこの事件を理由にコンビを解散すると言い出し、準決勝前にコンビの危機という展開になっているわけだが、この飛躍が私にはちょっと受け入れがたい。ダイキもユイもそれとこれとは関係ないやろと総ツッコミするのだが、ほんまそれです。日本における売買春の状況は圧倒的に少女たちに不利なものであり、かなり根が深いのです。兄貴、あんたはひかりちゃんにちゃんと寄り添えたか?彼には日本の売買春についてちゃんと調べて欲しいと思う。彼女たちを「非行少女」とかそんな風に呼ぶ文献ではなくて、彼女たちの視点に寄り添った文献で。ユイが「ひかりちゃんがそんなことするわけないやろ」と言いましたが、「そんなこと」をする女の子に貼られるレッテルのことを思えば、己のアウティングがいかに愚かかわかるはずです。

情けね〜ポイントその②・ヒロインが死ななきゃ成長できない。舞台終盤、白い装いのユイが踏切の音とともに登場(このシーン、とても美しく演出されていました)。そこにダイキが帰宅。波乱の準決勝から幾日後、ダイキはアル中野郎になっていました。情けないね。落ちていく自分を、自分ではどうにもできない、しようともしない態度、うんざりするね。ユイに叱咤されて、ユイの死を知って、ようやくダイキの人生は再び動き出します。それはツトムも同じで、二人はコンビを再結成、ダイキは親が払っていたアパートを引き払い、数年後には単独ライブ、幕(このラストの時間経過の描き方がうまい!)。成長したね。よかったね……ちょっと待って。ユイが男に都合良すぎじゃない?生前は父親の暴力を受け、死んでなおダイキとツトムを励まして。彼女は男を慰めるために生まれてきたの?当の男たちは彼女のことを懐かしく思い出して、感傷に浸っていたりする。今頃どうしてんだろな、なんて男はお気楽だわね。実に情けなくて、好きじゃない。もはや憎悪が湧いてくるほどに好きじゃない。そんな私はユイの死装束ですら心配になってしまう。だってユイ、あんなフェミニンな格好してなかったじゃん。死んでなお、男の理想押し付けられてるんじゃないの?ほんとはこういうのも好きだったんだよねってことならいいんだけどさ……私、あなたと友達になりたかったよ。私ならモンスターのいる家に帰させはしない。通報する。一緒に戦う。だから死なないでよ。

 なんて情けない男たち。とはいえ、本作は現実の男たちを実にうまくトレースしているのだと思います。残念ながらこれが現実。私は大学時代の出来事を思い出しました。ボランティア先でセクハラを受けた際、隣の男の子が私を助けるどころか私と一緒に愛想笑いをしていたこと。彼はユーモアがあって、優しくて、なんならちょっと好きだったけど、無知で、だから肝心な時に無力で、それが情けなくて、うんざりしたのでした。

最後に、情けね〜ポイント番外編。とても小さいことかもしれませんが、泥酔したツトムを指してダイキが「こんなやつ西成におったな」と言ったこと。「西成ネタ」って関西人は好きなのか、結構耳にするけど、これにもいつもうんざりします。だってそれ差別じゃん。全然笑えないよ。「西成ネタ」を使うすべての関西人に中指立てて、私のレビューの結びとします。

 

レビュアー プロフィール

足達菜野(あだちなの

伊丹想流劇塾第5期を卒業後、脚本執筆に勤しんでいる。
今年の目標はいっぱい上演すること。
俳優としても活動中。
近年の出演作は
2022年地点イヴ・シリーズ『水鶏』
2023年うさぎの喘ギ第9回公演『いつだって、はじまれる』
2023年うさぎの喘ギ第10回公演『演劇RTAハムレット』 など。

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