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「共に深呼吸をする」

舞台装置は、水槽が4つ。梯子の近くには、無造作に積み上げられた箱馬。公衆電話。長椅子。汚い丸椅子。
第一印象はとてもおしゃれな空間だと思った。バーかカフェのような清潔感の漂う、隠れ家的な印象。ジャズ?が流れており、おしゃれすぎて窒息しそうになる。
 舞台が始まる。男が穴を掘っている。
 おしゃれな空間と演出と、登場人物たちの違和感が独特の雰囲気。
 
 タトゥーを彫る。何のために?
 物理的に穴を掘る。何のために?
 会話、悩み、コンプレックス、無意識、意識。
 私たちの周りには見えていないだけで、掘っているものがたくさんあると思った。
 
ポスターの深呼吸がにじんでいる。観劇しながら、私はにじんだ深呼吸のことを考えていた。水の中でにじんだのだろうか。誰かの想いでにじんだのだろうか。もしくは、息継ぎの一瞬にふと見える深呼吸なのだろうか。登場人物に起きている出来事は、近いようで遠い。少なくとも、私は経験したことがないことばかりだった。けれど、全員に愛着がわく。不器用で、でもまっすぐな人たちを見つめているからだと思う。
時系列と場所がコロコロと変わるので、おいつくのが少し大変だった。中学高校社会人と立場が変わっても服装は変わらない。変わらないのに、会話から現在の立場を読み取った瞬間に服装も行動も説得力が出るのですごいと思った。

 ここからは、舞台全体に対してではなく、登場人物に対して思ったことを書こうと思う。この作品は、オムニバス方式をとっており、完璧にあらすじを書くことも、時系列順に感じたことを書くことも、今の私には技術不足でうまく伝えられないと思うからだ
素敵で魅力あふれる登場人物であふれていた。少しでも、伝えられたらいいなと思う。

 ジャンパーさんは不憫だなぁと思った。
先輩には自分自身を掘られる。
 前田さんにはコンプレックスと好きな人。
 一番普通と言われる立場にいて、その自分が変だなぁと思っている人が「普通だね」なんて言われていて。じゃあ自分は何なんですか?無味無臭ですか?人畜無害ですか?
言えなくて、でもそんな自分が前田さんの後片付けをやっている。
 彼の問題に巻き込まれやすいというところを見れば、全然普通じゃない。でも、普通ってきっと他人から評価されるものだから、彼に直接声をかけることができない私が思ったところで彼の「僕って普通だなぁ」を否定することはできない。普通じゃないですよ!異常ですよ!
 異常な体験してますよ!あなた!

 前田さんと青色さんの死に対する独特の空気感も癖になる。
 青色さんの自殺。もちろん、どうして死んだのか、どうして助けてあげられなかったのか。自殺というアクシデントで考えることはたくさんあると思う。けれど、なんだかそこが本質ではないような気がした。フラッとどこかに行ってしまいそうな彼女の空気が、なぜだか自殺を私に納得させる。軽やか。そう、彼女の自殺はなんだか軽やかだった。
 反対に前田さんの死に方は泥臭い。重みがある。事故死なのか他殺なのかもわからない。状況的には事故死だろうけど、後の先輩の処理の仕方を見ているとあれ?と思う部分もある。あれ?と思う部分しかない。心に引っかかって、全然離れてくれない。
演出で彼が死ぬ場面を見せられているからかもしれない。同じ死という質感が、微妙に違っている。きちんと触らないと見つけられないけれど、確かに違う死の質感が私の前に現れる。どちらの死も比較できないことは分かっている。けれど、どこかで死を比較してしまう自分がいることに気づく。

コートちゃん、すごく好き。
コートちゃんは電話で「彼は私の中では死んだんです」と言う。彼は現実でも死んでいるのだ。「私の中では死んだので、もう会えないのです」と言う。彼は死んでいるのでもう会うことはできないのだ。
彼が死んでいることも、彼の別れ方がなんだかコートちゃんを捨てて無言で違う街に行った感じがすることも、分かってしまう観客の立場だからこそ胸が苦しい。コートちゃんにとって、どっちがいいのだろう。私は知らないままでいてほしいな、なんて思う。知らないまま、新しい好きな人を見つけて幸せになってほしいなって思う。
自分で突っ走っているのに、どこかおいて行かれたと感じてしまう。切ないなぁと思いながら彼女を見ていた。

先輩は、キャラクターと演技が絶妙だった。
大胆なのに繊細で。根掘り葉掘り聞く癖に、あんまり興味がなさそうな感じ。
一般人に溶け込めそうなやばいやつ感がすごかった。
前田さんの死体を乗せて、来た道を戻るときの諦めたような、吹っ切れたような不思議な感覚がずっと心に残っている。あの瞬間は、彼がふやけて本質がぽろっと表れたように感じるからだ。あのふとした異質な明るさが、彼の魅力かもしれないなぁと思った。あのつかみどころのない、目を凝らさないと見えない光がとっても魅力的でどこか憎めない人なんだろうなぁと思った。

 素敵な作品でした。本当にありがとうございました。

 

レビュアー プロフィール

今城結貴
俳優、戯曲、演出

大阪芸術大学で演劇を学んでいます。戯曲を書いたり、本を読んだりするのが好きです。美しいものが好きです。演劇の学んでも学んでも学び尽くせないところ、人によって感じ方が全く違うところに惹かれます。好きな作家さんは、江國香織さんと寺山修司さんです。よろしくお願いいたします。

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