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​ほかに道はあるのか?

 前半と後半の2部構成となっている本作の冒頭、主人公の女性のもとに「自分はあなたの未来の夫だ」と名乗る男が現れる。その男は、自分がその女性と結婚する未来を変えるために来たと言う。その未来とやらはロクなことが起こらないらしいのだ。だがその時すでに女性には同僚の彼氏がいた。女性はその彼氏との結婚に前向きだが、彼氏の方は結婚を渋っている様子。互いの利害が一致?したこともあるのか、女性は未来の夫(と名乗る男)に自分と今の彼氏を結婚させるようにしてほしいと頼む。とはいっても未来の夫(と名乗る男)も、未来の得意料理のレシピを教えたりするなかで、出会う前の妻であるその女性に好感を抱いてしまうだろう。結局彼氏が女性の両親のもとへ結婚の挨拶に行くこととなり、目的を達成した未来の夫(と名乗る男)のもとには、「お迎え」のようなものが到来し、男は姿を消す……。

 というわけで、何とも主人公に都合の良いSFラブコメ感が微笑ましくもある前半から一転(!)、後半は別の作品かと思うほど重苦しい。後半の最初に描かれる、タイムスリップする前の未来の夫(と名乗る男)と女性の結婚生活は、「仕事」の楽しさを通じて惹かれ合った2人であるにも関わらず、特に夫の「仕事」の度が過ぎる多忙さゆえに破綻してしまう。次いで、前半の続きとして描かれる女性と彼氏の結婚生活は、彼氏の頼みで専業主婦となった女性が、仕事のミスのイライラに端を発した彼氏からのモラハラ・DVや専業主婦の家事労働という「仕事」に疲弊して離婚を選び、職場復帰する形で終わりを迎える。

 このように、本作は突如その後半において、女性が「仕事」と折り合いをつけながら生きていくことの困難について描こうと試みているようである。それにしても、そもそも「仕事」なしで生きるという選択肢はありえないのだろうか。本作においては主人公も夫も彼氏も、「仕事」のせいで幸福から遠ざけられているのだから。そういえばイーロン・マスク曰く10〜20年以内に「労働は選択(趣味)になる」らしいし、サム・アルトマン曰く人類はこれから「ポスト労働文明」に移行していくらしい。実に眉唾だが、仮にそうなれば彼らも幸福になれるのかもしれない。

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​撮影:水上琴葉

執筆者 プロフィール

三田村啓示(みたむらけいじ

主に関西圏を中心に、演劇について多岐にわたる活動を行う。第18回(2015年)関西現代演劇俳優賞受賞。KYOTO EXPERIMENT主催【批評プロジェクト 2025】にて、「告白と謎」が最終選出作に選ばれる。最近は労働と育児の合間に演劇作品に出られそうなら出たり、雑文や劇評を書いたりする。WINGCUP審査員については、ウイングカップ5より10年にわたり務めた。

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